【経営情報】
本ページは過去の経営情報を再掲載しております。
ある中小企業の倒産劇
某企業調査会社の情報誌に次のような倒産記事が掲載されていました。
和菓子製造業が事業を停止し、自己破産申請の準備に入った。当社製造商品は土産として認知度が高く、百貨店や空港売店、ホテルなどに販売するほか、高速道路サービスエリアにたい焼き店を出店して業容を拡大。
しかし、3年前に当時の副社長が従業員を大量退職させたことで経営が混乱。打開策として経営コンサルタントを受け入れたものの、ますます収益が悪化し、資金繰りにも狂いが生じる事態となった。弁護士に債務調査を依頼し、支払いを一時停止して事業計画を策定の上、返済案を提示するとしていたが、信用不安を招いて資金繰りがさらに悪化。従業員の退職も相次ぎ、業務提携による再建計画も暗礁に乗り上げたことから、事業継続を断念した。(抜粋終わり)
上記は情報誌の倒産記事で詳細はこれ以上わからないため、本経営情報として掲載するには情報不足ですが、推測しながら記載したいと思います。
①経営コンサルタントの受入れ
中小企業を支援する専門サービス業は弁護士、税理士、会計士、中小企業診断士、コンサルタント様々ですが、経営者が勘違いするパターンとしてコンサルタントに依頼すれば会社が良くなるだろうと考えることです。病院に行って診断・治療をしてもらっても、自分自身が病気を治すための努力と生活改善をしなければ直らないのと同じです。あくまでもコンサルタントは助言者でしかありません、経営改善をするのは経営者自身です。コンサルタントに依頼する際は経営者としての期待値を最初に文書化して意思疎通を図ることです。
②事業計画書の策定
資金繰りが狂ったことで弁護士に依頼し債務調査とありますが、これは適正な第三者に実態バランス(B/S)を精査してもらい、いくらなら支払えるかの返済案を債権者に説明し理解を得ることだと思います。いわゆる仕入先を含めたリスケジューリング(リスケ、私的整理)です。この会社の企業規模は数億円ですが、このレベルの企業であれば弁護士に依頼し債務調査は必要ないでしょう。まずは経理で向う半年の資金繰りを作成し、いくらなら仕入先に支払えるのかを経営者自らが大口先に説明すべきでしょう。この段階で正確な債権債務の調査などは必要ありません。
また、任意再建の段階で弁護士が介入すると仕入先は民事再生か破産かと要らぬ不安をもたせる原因にもなります。この記事には手形決済不能との記載はありません。このような業界は比較的支払サイトより回収サイトが短い場合が多いので、支払手形決済はなかったと推測されます。支払手形決済がなければ、業種柄再生も可能ではなかったと推測します。
③業務提携による再建
資金繰り悪化と従業員退職も相次ぎ、業務提携による再建計画とあります。経営者は厳しくなるとどこかうちを買ってくれないだろうかと考える場合も多くあります。この会社もM&Aに近い業務提携と推測されます。しかし、経験上資金繰りが厳しくなってからのM&Aは特に中小企業はほとんど成就しません。双方の思惑に大きなズレが出るからです。例えば、
買われる方は高く買ってほしい、借入保証をゼロにしてほしい、自分の地位を保全してほしい、自宅を手放したくない、息子の雇用を維持してほしい等々
買う方は安く買いたい、保有株比率を高めたい、古参幹部は退職してほしい、社長を派遣する、経営陣は総退陣してほしい、銀行借入をカットしたい等々
買われる方も買う方も主張すること自体は否定しませんが、個人的な欲も絡み、再生会社のM&Aは難しいものがあります。M&Aは中古車と同様、よく走るように板金修理しエンジン回りも整備しないと高く売れないのと同じなのです。
この経営者は依頼した経営コンサルタント、弁護士に会社を潰されたと嘆いているかもしれません。しかし、中小企業の経営の責任は全て経営者にあるのです、そのリスクを負える人材だけが本当の経営者になるのです。他人に教えを請うことは重要ですが、他人に期待をしてはいけないのです。
④従業員の大量解雇
最初に従業員を大量に退職させたとありますが、解雇ありきの会社再建は多くの歪を生みます。ましてや外部の専門家が最初に社員解雇を進言することは力量を疑ったほうがいいでしょう。
経営者は社員を雇用するということはその人材の人生を預かるという意識を持たなければ、社員が働かないから業績が悪いと全てを他人のせいにしてしまいます。
山本五十六の言葉に、
「やってみて 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」
という言葉があります。経営者は社員に対してこの言葉を頭に入れて接しなければいけません。
また当社の言葉ですが、
「会社は家庭なり 子育て同様に 社員を育てるべし」
子供である社員を路頭に迷わせてはいけません、経営は子育てと同じなのです。